廣島スタイロ

祝祭の朱

カルロスNo. 4

フードのケータリング、イベントの企画運営、展示会のプロデュース、時には仲間のアーティストのために撮影もする——。広島の街で、そんな多面的な活動を行っている人物がカルロスさんです。「カルロス」と言っても、広島生まれ広島育ちの純粋な日本人。濃い顔立ちであること、さらにはスペインでの濃い留学経験があることから、そんな名前で呼ばれるようになったのだとか。とはいえ、彼の現在の活動も非常に濃密。その柱とも言える「人とワイワイしながら、何か新しい表現を行う」という想いの原点をたどるべく、お話を伺いました。

盛り上がりの中で、人と深くつながっていく

「現在の肩書きは…?」と言われると、難しいんですよね。いろんなことをやっているんで、どれに統一するのか迷ってしまうんですよ(笑)。その中で、一番の収入源になっているのが、フード関係ですね。自ら企画したイベントだったり、誰かのマーケットだったり、ホームパーティの料理だったり。あとは、結婚式のパーティで料理を任されることもあるんですよ。

料理に目覚めたきっかけは、母なんです。料理に詳しい人なので、小さい頃からいろんなところに食べに連れて行ってもらっていて。でも、本格的に料理を覚えたのは、スペイン時代。高校を出た後、帽子作りを学ぶために留学していたんですが、その学校を卒業する際に先生からファッションの勉強を勧められて、別の大学に行くことになったんです。でも、その学校というのが私立だったので、学費がけっこうかかってしまって。

そんなとき、レストランをやっている友だちから、「店の営業は夜だけだから、お昼の時間を使ってランチを提供していいよ」と言ってもらえたんです。そこで店のシェフから1週間ほどトレーニングを受けることになったんですが、それがすごく勉強になって。「大きく分けて味には3つあるから、その組み合わせの中で味を足したり引いたりして、料理を決めていこう」ということが主な内容だったんですが、教え方も上手だし、話もわかりやすいし、その時間が本当に楽しかったんです。それで、一発で料理にハマってしまいました。

結局、お金も無事に貯まって大学にも行けたんですが、2年経った頃に帰国することに。というのも、欧米のファッション業界の人って価値観が閉鎖的で、着ている服を見て相手のことを判断する傾向があるんです。でも、それは本当の意味でオシャレじゃない。本当のオシャレというのは、もっと人に根付いているものというか、見かけのものではないはずだと思って。そこで、僕はもっといろんな人とワイワイしながら、そこから新しい何かをクリーエーションした方が向いているんじゃないかと思って、帰国することにしたんです。

その後、広島に戻って始まったのが、「SUnDAYS」というプロジェクト。職業も生い立ちも全然違う仲間が自然に集まって、「自分たちが本当に良いと思うものだけを伝えよう」という想いでイベントを企画するようになったんです。その際、「食べ物とか飲み物があった方が盛り上がるよね」という話になったので、「スペインで料理を作っていたんで、僕やりますよ」と言って。以来、そのチームでホームパーティだったり、イベントだったり、時には海外のアーティストを呼び寄せてツアーライブを企画したりして、その中でケータリングのサービスをやるようになっていったんです。

結局、SUnDAYSは5年間活動して昨年解散したんですけど、本当にいろんなジャンルの人と出会えたんですよね。数え切れないくらいいろんな想い出があるんですけど、たくさんの人と繋がれたというのが、一番の収穫だったと思います。

考えてみれば、「いろんな人と繋がってワイワイやる」のって、小さい頃から好きなんですよ。例えば地元にいると、年に何回か親戚が集まって、縁側で飲んだり食べたりすることってあるじゃないですか。そのときの盛り上がる感覚というのが、ずっと身に染み付いているというか。

あとは、実家の窓から住吉橋の風景が見えるんですけど、その影響も強い。住吉祭の時期になると、あの朱色の大きな橋が歩行者天国になるんですね。いつもは車が行き交っている道路が、祭りに向かう人たちでいっぱいになる感じ——そういう何かにワクワクしながら人が交錯する瞬間というのが、僕の原風景になっているんです。

スペインの若者はルームシェアをしていることが多くて、ホームパーティが行われることが日常茶飯事なんです。当時、そういういろんなカルチャーを持った人がひとつの場所に集まって非日常感覚を楽しむというのが楽しかったんですが、実はそれも僕の原点につながっているのかもしれないですね。

取材後記

フードでのコミュニケーションを中心に多面的な活動を行うカルロスさん。その中心にあるのは、小さい頃からの原風景とつながるというホームパーティのカルチャーでした。ただ、カルロスさんの「ホーム」の概念は時間とともに変化を見せ、いまではホームそのものを作り出してしまうほどの大きなうねりを作り出しています。そんなカルロスさんが、現在力を入れているというのが「廣島カルソッツ」というイベント。カルソッツというのは、スペイン・カタルーニャ地方の冬の風物詩とも言われるネギの丸焼きを食べる習慣のこと。スペイン留学時代、そのイベントの「焼いたネギをソースにつけて食べる」というシンプルさと、「旬のものを旬の時期に食べる」という贅沢さにハマったというカルロスさんは、昨年自ら広島でイベントを開催することに。その結果、大盛況だったことから、今年も農家さんにイベント用のネギを作ってもらっている最中なのだとか。そんなイベントの中にあるのは、「ただ自分たちや参加した人だけが楽しむのではなく、おいしいネギを作ってくれる農家さんにスポットをあてたい」という強い想い。カルロスさんの人を繋げる“場作り”は、これからも加速していきそうです。

Profile カルロス 1985年生まれ。20歳のときに帽子制作を学ぶために、スペインの服飾大学へ入学。26歳のときに帰国。2013年、広島にて「“食“をキーワードに、街を舞台とした“ASOBI”の再考」をコンセプトにしたプロジェクトを仕掛ける「SUnDAYS」を結成。広島と海外を行き来しながら、「The johnny freelance experience」のツアーをはじめとし、様々なイベントを手がける。2017年、SUnDAYS解散。現在はフードのケータリングを中心に、個人で多面的な活動を行っている。