廣島スタイロ

silence gold

株式会社歴清社久永 朋幸代表取締役社長No. 2

「金」という言葉を聞くと、どのようなイメージを浮かべるだろう。きらびやかさ、栄華、冨の象徴…など、「派手さ」という意味を含んだ言葉を連想する人がほとんどではないだろうか。しかし、金や銀の老舗箔押し加工メーカーである歴清社の久永朋幸さんは「歴史を遡ると、かつて金は『落ち着く色』として重宝されていた」と説明する。なぜ、派手さが特徴的な金が真逆の色合いとして使われていたのか。金に秘められた色の魅力について、久永氏から話を伺った。

金箔のもたらす、落ち着きのある明かり

私の“色”ですか? どう考えたって金色しかないですよね(笑)。金銀箔に囲まれた環境で育ちましたし、親族に小さい頃から「あなたは将来この会社を継ぐの」と言われていたので。ある種、金に関する英才教育を施されてきたようなものですよ(笑)。だから、金のある風景というのが、私の原風景ですね。

実は、箔には様々な色がありまして、金、銀、プラチナと高価なクラス。真鍮、アルミ、錫、銅といった安価なクラス。さらに銀や真鍮を硫黄で燻してあえて変色させた貴重なクラス、と大きく分けて約11種類、細かく言えば約200種類くらいあるのです。中でも、特に有名なのは金箔ですよね。海外市場では相変わらず根強い人気で、中東やニューヨークのホテル、またラスベガスなどのカジノ施設などに使用されている。主には天井や外壁、円柱なんかにも貼られていたりします。

一方、日本の場合は、昔から襖や屏風などで使われていることが多い。豊臣秀吉の「金の茶室」や足利義満の「金閣寺」はよく知られているところだと思います。ただ、金の茶室や金閣寺というのは、海外のように空間をキラキラさせるために金箔を使っていたわけではないのです。というのも、当時は蛍光灯みたいなモノがありませんから、明かりはロウソクの火や外からの光だけということになる。そうしたほのかな明かりで箔が貼られた空間を照らすと、自然と陰影による奥行きが生まれ、とても落ち着いた色合いになるのです。

これには諸説があるのですが、ある文献には「秀吉は戦に行く前と戦から帰ってきた後に、よく金の茶室を利用していた」という話が残っています。つまり、戦に赴くときは茶室にロウソクの火を灯して士気を高め、逆に戦が終ったときは明かりをすべて消して、建具の隙間から差し込む月明かりの中で心を鎮めたんです。実は、それが金の持つ本来の魅力なのですね。

私が広島に金の茶室(Top note 別館)を作ったのも、そのような金の原風景とも言える空間を再現したかったから。箔の魅力をインストールした茶室にお客さんを招き、間接照明やロウソクの明かりに照らされた「落ち着いた金」の中で一緒に茶やお酒を飲む。そうやって本来の金の色を実感してもらうことが、箔の魅力を深く理解してもらう近道になると思ったのです。

わたしはこれからも箔文化を後世に繋いでいくために、この茶室をはじめとする様々な取り組みを通じて、もっとたくさんの人に箔の本当の魅力を伝えていきたいと考えています。

取材後記

今回特に印象的だったのは、歴清社のショールームで最初に見せていただいた暗い空間の中に佇む箔の光。自分が今まで抱いていた金の印象とは180度違うもので、「静寂」という言葉がまさに当てはまる、趣のある光でした。その後、久永さんの案内で職人さんたちの仕事も見学させてもらえることに。箔の制作は、そのほとんどが職人さんたちによる“手”作業。箔へのこだわりとそれを実現する高い技術力があるからこそ、あの金の奥深い輝きを表現できるのだと感じました。

Profile 久永 朋幸 広島県広島市生まれ。明治38年創業の株式会社歴清社6代目社長。「日本人の美意識が生み出した箔文化を現代に生かす」ことを目指し、伝統的工芸技術である箔押しで不変色性の「紙」を製造。また、それを実現させる世界唯一の接着技術をもとに、新たな素材・装飾技術も提案している。最近では他業種やアーティストとのコラボレーションを積極的に行い、箔文化の普及活動にも力を入れている。