廣島スタイロ

DAY GREEN

morning.JUICE STAND國分 聡店主No. 1

平和公園の真ん中を東西に走る道——中心街で働く多くの人の通勤路となっているその道を、街とは反対方向に向かって真っすぐ。さらに橋を2つ超えると、先の交差点の角に見えてくるのが、morning. JUICE STAND。中心地から少し離れた場所にあるのに関わらず、多くの人で朝を賑わせている名店で、平日週末を問わず人が列を成している光景はすでに街の景色の一部となっています。

店主の國分聡さんは「注文を受けてからスムージーを作ること」「その日の夜明け前からフルーツサンドを仕込むこと」にこだわり、常にその場のライブ感を大切にしながら、お客さんとの会話を弾ませています。そんな國分さんが店の経営を通じて発信し続けているのが「朝の活動」と「飲み歩きの文化」。そこには、広島の個性的な街並みに対する想いが詰まっていました。

広島のライブ感や“いま”を感じる場所に

僕は元々10年間、その当時100店舗くらいを展開する飲食チェーンで働いていました。しかし、次々に新しい場所に店舗展開していく中で、次第に料理や接客、人事など、様々なことがマニュアル化されていくようになっていったんです。本来、人や地域によって好みや地の食材が違うので、僕はその地域ごとにお店の特色を変えていくべきだという考えだったのですが、会社の方針により、自分の理想とする接客ができなくなっていきました。その結果、会社の考え方とのズレを感じ、会社を辞めることにしたんです。

当時、僕は33歳。年齢的にも自分の店舗を構えたいと考えていたので、かつて暮らしていた広島の街に戻ってきました。しかし、久々に広島の街を歩き回ってみると、以前は面白い個人店が並んで賑わっていた場所だったのに、全然活気がなくなっていて。その一方で、個人店のようなお店ではなく、チェーン店のようなお店に人が集まっていたんです。その風景に、とても違和感を感じました。

そんなとき、かつての上司に橋本町でセレクトショップを営む古本浩さん(以後、フーさん)を紹介されました。彼は「これからのお店は、ただモノを売るだけではつまらなくなる。東京からのトップダウンでどこに行っても同じモノが並び、店舗の意味が薄れていく時代だ」と言っていて。その話を聞いて、自分が抱いていた街への違和感の正体がわかった気がしたんです。そんなことがあって、フーさんの考え方や目線に共感して、すぐに意気投合。週5日程度、彼のお店に入り浸るようになっていったんです。

そこで、自分が店を構えたいという想いをフーさんに話したところ、「準備や構想を練ることに時間を費やすよりも、まずはやってみたら?」と言われ、彼のお店でのポップアップショップを提案してもらったんです。そのとき、フーさんにポスターやロゴの製作を手伝ってもらいながら作ったのが、「morning. JUICE STAND」だったんです。そのときに考案した「mr.morning」というグリーンスムージーは、今でも看板商品としてメニューに並んでいるんですよ。

その後は、フーさんの店を介して出会った人たちと、「SUnDAYS」というイベントプロデュース&ケータリング集団を発足。様々な場所でイベントを催していく中で、morning.も認知されるようになり、ケータリングの出店依頼も増えていきました。そして、ケータリングを始めて3年目、今の場所にmorning. JUICE STANDを出店しました。

店で売るジュースは、朝時間がない人のための「栄養が摂れる飲みもの」なんです。ただ、健康方面に打ち出したいわけではなくて、「朝の文化」と「飲み歩きの文化」を築きたかったんです。モノをただ売るだけでは面白くないので、非効率でも作り置きをせず、注文を受けてからジュースを作る。もちろん、そのせいでお客さんを待たせてしまうこともありますが、その一方で会話するリズムも自然と生まれるようになるんです。毎回同じ味にするということも実は意識していなくて、人それぞれに合わせた接客と味を出せればいいと考えています。

お店のスタイルも、外と中の境界線を作らずに、列に並ぶ人や隣り合う人との境界線が曖昧になるようにしています。そこで僕とお客さん、お客さんとお客さんが自然と繋がっていくライブ感を演出することが僕にとっての理想なんです。

広島の街並は他の街とは違う個性があって面白いと思ってます。東京などに比べてビルが少なく、その一方で街の中心地のすぐ側を川が流れ、緑豊かな平和公園や平和大通りがある。それに、街を走る路面電車も、どこかのどかな空気感がありますよね。そんな街をmorning. JUICE STANDの色とりどりのドリンク片手に歩いてもらうことで、街にmorning.という色を落としこんでいく——。そんな景色をこれからも作っていければいいなと思っています。

取材後記

道と店の境界線が曖昧に思えるほど表にせり出した店のファサード。そして、跳ね上げられた大きな両窓。DIYで作られたというお店は、いい意味での“仮設”感を備え、いつもライブ感で満ち溢れ、お客の期待を誘っています。「お客さんとの会話を何よりも大切にしたい」という彼のスタイルが、そのまま店の作りに現れているようです。また、客と店主という関係性さえも希薄にしてしまうような軽快な彼の性格と会話のリズムは、本来退屈な注文を受けてからできるまでの「待つ」時間さえも楽しい瞬間にクリエイトしてしまう。そういった飲食店にある既成概念に囚われない彼独特の発想が、店と道や、店主とお客、お客とお客といった様々な境界線さえも取っ払い、賑わいを演出し、独自のコミュニティを築いています。morning.の色とりどりのドリンクは、街を歩く人だけに留まらず、それを風景としてみる人々や街までも元気づけています。

Profile 國分 聡 愛知県一宮市生まれ。大手飲食チェーンに10年間勤めた後、33歳のときに店舗を退社し、独立。広島に移り、「morning.JUICE STAND」の活動を開始。スムージーを中心としたドリンクをイベントなどでケータリングする。その後37 歳で、天満町に実店舗を出店。季節感溢れるオリジナルのスムージーとフルーツサンドで広島の朝のシーンを演出している。